最近では、寮母と書いても「りょうぼ」と読めない介護職員がいるらしい。

読めても「寮母って何?寮を管理するおばさん?」と言う若者も多い。間違ってはいないが、介護の世界ではつい最近まで介護職員はすべて「寮母さん」と呼ばれていた時代があったのである。

介護福祉士が資格化された以後も、施設の介護職員の職名に「寮母」を使っていた施設は多いと思う。僕の施設でも平成11年の3月まで、その職名を使っていた。

しかし特養の介護職員が寮母という職名であることについては、僕も最初は違和感を持っていた。大学卒でこの世界に入った頃、まさしく「寮の管理人」というような語感のある職名をなぜ当てはめているんだろうと思ったものだ。

しかし慣れとは恐ろしいもので、いつの間にか、その言葉に違和感も不思議さも感じることがなくなり数年を経ていくわけであるが、その間に、男性の介護職員が登場し、「寮父(りょーふ)」と呼ばれ始めて、再び何かおかしいな、という感覚がよみがえった。

我々が施設の中で生活支援を行いながら関わっている人々は、全て我々よりも人生の先輩たちである。それなのに介護を提供する側が「母」とか「父」とかいう文字を使っている言葉に不自然さを感じたし、「寮」というイメージも違和感があった。

辞書で調べると「寮母」は「寮にいて、寮生の食事などの世話をする女性。」となっている。

つまり「賄い(まかない)」のイメージだ。介護の専門家としての職名にはふさわしくないだろうと思った。そこで11年の4月から寮母という職名を廃止したわけだが、それに変わる職名はケアワーカーとした。

介護職員は介護福祉士の有資格者とホームヘルパーの有資格者に分かれているが、名称独占の介護福祉士をそのまま有資格者の職名にし、その他の介護職員は別名称にしようという案もあったが、利用者の混乱が予測されたので、名称独占に触れないケアワーカーを職名としたわけである。

言いづらいかな、思ったが、新規の入所者の方々は自然に「ケアさん」と呼んでくださり違和感も持たれていない。

しかし古くからいる利用者の方は未だに「りょーぼさん」と呼ばれる方もいる。まだまだこの言葉は施設の中では生き残っているのである。

ところでこのとき相談員も「生活指導員」という職名であった。このシドーインという語感ほど誤解を与えるものはない。何を指導するというのか。少なくとも利用者に対する指導ではないはずであるが「生活指導」が高齢者のケアに必要だと考えられていた時代があったのかと疑う。

おそらくこれは児童福祉施設の職名をそのまま高齢者施設にも当てはめたものだろう。マッチするはずがない。

この職名はソーシャルワーカーにした。相談員でよいという意見もあったが、僕はもっとグローバルな支援イメージを持っていたので、あえてソーシャルワーカーとした。しかしさすがにこの職名はお年寄りには馴染んでいない。「ソーシャルワーカーさん」と読んでくださる方は皆無である。

かくして現在、我が施設のソーシャルワーカーは、ほとんどのお年寄りから名字を「○○さん」と呼ばれている。しかし、これも一面よいだろうと思っている。本来、お互いの名字をさん付けで呼び合う関係が一般社会では普通だろうから・・。少なくとも「シドーイン」よりずっと良い。

「シドーイン」という嫌な言葉は、もう僕の施設では死語である。しかしそうなったのはつい最近のことで、僕が施設長になる前は、僕のことを「シドーイン」と呼ぶ前時代的な感覚職員がまだいた。さすがに今そう呼ばれることはない。

ちなみに利用者からは、その頃も「だんなさん」とか「課長さん」と呼ばれていた。若い頃はよく「オニイチャン」と呼ばれたりもしていたので、利用者もその時々に合わせて呼び方を変えてくれたようである。職員より利用者の方が、よっぽど適応力があるということだ。

よく「高齢者は環境の変化に弱い」なんていうが、今の高齢者は大正の時代から、戦争も経験して、高度経済期を経て、ネットの時代も生き、超高齢化社会に生きる、激動の変化を生き抜いているタフな世代なのだ。

適応力は今の若い世代よりずっとあるんだ。侮ってはいけない。

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