最近の話であるが、とある施設(特養ではない)の管理者の方とお話した際「家族ができるインシュリン注射を介護職員ができないという理由で、入所できない人がいて、行き場のない人がいる。こんなことは問題で、私は看護師がすべてできなくても受け入れている」ということを聞かされてことがある。

僕はそれは少し違うし、問題があると思って、反対意見を述べた。インシュリン注射を介護職員ができないことでひき起こる問題を、いつまでも放置できないのはその通りと思うが、だから現状で、それを行ってよいという判断も違うと思うのだ。ただし問題解決に向け提言はしていかねばならないと思う。そういう意味で、少し長くなるが医療行為について、またここで意見を述べさせてもらう。

僕は施設での医行為について、コンプライアンスの視点が重要で、経管栄養の管の交換の問題も過去のブログ「介護職員が腹部カテーテル挿入〜その問題の本質。」の中で、問題と指摘された施設の管理者の「意識が低すぎる」とわきの甘さを指摘している。

しかしそれは、問題とされた行為自体を介護職員が行うのは将来的にも駄目である、という意味ではない。

現行のルールの中で、介護職員には出来ない行為に該当するとされる可能性が高いのに「誰でもできるだろう、完全に黒とされているんではないだろう」という意識で、その行為を日常化する状況は、正当な「介護職員が出来る行為を拡大してほしい」という主張にまで水を指す。と言っているに過ぎない。

むしろグレーゾーンが未だにあることも問題であるし、もっと介護職員ができる行為を広く認めて欲しいと思っている。

腹部カテーテル挿入問題について、それを行なっていた施設は「国は管の装着が医療行為に当たるか否かは明確にしているわけではない」と主張してたが、その後、「胃ろうや鼻腔チューブからの栄養・水分補給については、医行為に該当する。」とあらためて指導通知が出されたが、僕はこの通知で示された判断自体をも正しいと思っているわけではない。

これが現行法上は医行為に該当し介護職員に禁じられている行為である、という現実認識は正しい。しかしそれが妥当な判断で必要な法制上のルールであるとまでは思わない。

管の装着といっても、体に直接ついている部分は医療行為として医師や指示を受けた看護師しかできないということは納得するが、栄養剤と繋がっている部分の管まで、これと同じ取り扱いということには納得はできない。しかし今は認められていないのであるから「できるようにすべきである」という主張は別にするとして、守るべきことは守った上で提言をすべきではないかという意味である。

過去に僕は
「医療行為は有資格者以外がそれを生業として行うことは出来ない。しかし同時に医療行為そのものの具体的内容を明示したものが存在しないのも事実である。それゆえ介護の現場では介護職が行ってよい行為であるのか判断がつかず、混乱し、看護職と介護職の対立にまで発展するケースも少なくない。湿布や軟膏塗布、点眼はどうかから始まり、爪切りや耳掃除まで議論の俎上に上っているのが現実なのである。こんなことで本当の意味で介護職が適切なケアサービスを行えるのだろうか。」と主張した。

その一つの答としては「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」で爪切りや耳掃除、口腔ケアなどは医行為に該当しないと示されたところであるが、しかしこの通知で示された行為はあまりにも狭すぎる。

医師でもある坂口元厚生労働大臣は在任中に「血圧測定もその結果の評価は医行為であるが、測定自体は誰でもできる行為である」と言っていたが、この通知では自動血圧測定器での測定のみが掲載されており、それでは水銀血圧計は駄目なのか、というふうに理解せねばならないような部分もある。考え方を後退させてどうするのか?

一方では在宅において医療器具を装着して生活しているたくさんの高齢者がおり、これらの方々の実際の生活を支えているのは家族の介護があってである。家族の行う医療行為は、生業とならないことで認められるのである。それらの方々が特養に入所した途端、家族が行っていた同じ行為が介護職には許されないのが現実なのである。

痰の吸引の例も然り。一定条件下において認められたヘルパー等介護職の痰の吸引も介護業務として認められたわけではない。つまり業務上の行為としては今もって認められておらず、業務とは別な行為として行える、という解釈に過ぎない。

さらにインシュリンの自己注射が出来ない方に対しては同居家族が代わって行えるが、介護職には認められていない、そのため看護師の配置体制によってはインシュリン注射が必要であるが自己注射が出来ないという理由だけでそれらの方を受け入れることが出来ない施設も存在する。これは果たして高齢社会の介護提供体制として正常な状態なのであろうか。

例えばALSの方の痰の吸引は、口腔内だけでなく人工呼吸器をつけた喉の部分も含み技術を要すため、介護職が行うといっても技術をきちんと持たないとできないし、そのための一定の教育やセーフティネットの構築が不可欠だが、そうした非常に技術がいる行為も条件付とはいえ業務ではない部分では有資格者でなくとも認めておいて、その他の比較的容易に行える行為を単に「医療行為」という枠だけで認めないことは介護の現場である施設等の医療ニーズの高い高齢者受入の障害になるであろうし国民全体の福祉を考えた時そのニーズに合致したものでないことは明白である。

この問題を積み残したままで「介護の社会化」という介護保険以後の国の福祉理念は達成できないし在宅と施設での介護者の出来る範囲が違っていては地域福祉の両輪である在宅ケアと施設ケアの整合性がとれず在宅でケアできた高齢者が医療行為がネックになり施設ケアに移行できない矛盾が解決できない。

介護療養型医療施設が廃止され、それらの施設が転換可能施設に移行したとき、転換施設の多くが夜勤に看護師がいなくても可能な施設であり、重度の医療ニーズにそれらの施設でも対応できないという問題がでてくる。

高齢化が進行し後期高齢者が増え、医療対応のニーズは拡大しつづける。それら増大するニーズに看護師のみで対応するのは不可能であり、国は医療行為の範囲を具体的に明示する努力を行うとともに、医療行為とて時代のニーズに合わせて考えを変えてよく、条件付で結構であるが介護職の出来る行為を広げ必要な高齢社会のニーズに応える必要がある。

これは特定の職種の職益を守るという視点を凌駕した医療ニーズを抱えて生活する人々が安心して生活できる社会システムを構築することであり、特養等の権益を拡大することではなく、高齢者介護の社会システムの一翼を特養等の施設が担える条件整備に不可欠な課題なのである。

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