先日、ある研究会で講演後、質疑応答の中で「介護予防サービスが将来的に介護保険から切り離されて医療保険になるんでしょうか」という質問を受けた。

どうやら高齢者医療制度の創設と今回の介護予防給付のルールとを絡めての質問らしい。

壇上から無責任な想像による回答は不適切であろうと思って、答えは濁したが、真意を言えば、僕自身はその考えには否定的である。

まあそういう方向が100%あり得ないという断言はできないが、少なくとも老健局の長期ビジョンにおける主流的な考えはそうではない(特に現職の事務次官の影響力が強い状況が大幅に変わらない限り、その考えは変わらないであろう)と思う。

そもそも昨年3月末時点で要介護認定者の中に占める要支援者と要介護1の合計数の割合は5割近くになっている。すると新しい認定の予測では、要介護1の約7割程度が要支援2に移行する、としている。それを元に計算すると介護予防サービス利用者は、認定者全体の4割近くを占めることになる。

しかも介護保険制度というのは保険料を支払っている人がすべて要介護認定を受けているわけではなく、高齢者に占める要支援・要介護認定者の割合は昨年4月時点で全国平均15.7%である。つまり大多数の人は保険料を支払うだけでサービス利用をしていないということを意味している。

これらの人も将来的に、要支援・要介護状態になれば介護保険のサービスを受けることができるという「権利」があることで強制保険である介護保険料の支払い「義務」を課しているのに、さらに認定者のうち6割しか利用できない制度にするとしたら、これは保険料徴収の整合性が厳しく問われる国民的議論にならざるを得ず、むしろ次期制度改正の本丸は保険料徴収年齢の引下げであり、これにターゲットを絞る国の方向性とは合致しない。

介護保険のひとつの意味は国民の新たな負担制度であり、国から見れば介護保険料は貴重な財源の一つであり、いかに今後これを広く薄く徴収する形を継続するかが課題なので、負担あってサービスなし、という状況では国民負担を拡大することが難しくなるからだ。

むしろ負担年齢の拡大の旗印に、介護予防という(仮に実態が伴わなくとも)国民には耳あたりの良いサービスを介護保険内のサービスとすることで、負担年齢の拡大のコンセンサスが形成されやすい状況を作り出したかった。そしてその下地として対象年齢拡大ができなかった昨年の改正で介護予防サービスを被該当者を含めて介護保険サービスに取り込んだという意味がある。

今までは介護保険外であった、介護保険の被該当者への地域支援事業等も保険内サービスとしたという意味は、予防の守備範囲について、医療保険制度は病気にならないようにする公衆衛生による予防保健制度であり、介護保険制度は要介護状態にならないよう疾病に起因しない廃用予防を担う、という意味をより一層明確にした、という意味であろう。

だから介護予防が医療保険に包括されていくという考え方は、積み残した課題として被保険者の対象年齢拡大という問題がある現時点では「荒唐無稽」とは言わないまでも、「筋悪(すじわる)」であると思う。

むしろ『介護保険制度、次期改正への布石。〜この改正で見える二つの影』 で指摘したように、次期改正では対象年齢の拡大とともに、定額報酬サービスの範囲拡大(一部の介護給付にも拡大)と介護予防対象者の拡大=要介護2の一部も予防対象に、という議論になるのでは、と指摘してきた。

しかしここに来て、後者の介護予防を要介護2の一部まで拡大するのでは、ということついては、何も制度改正で議論した結果そうしなくても、現在行なわれている認定ソフトの改正で実施されてしまうのではないかと危惧している。

介護認定ソフトを改正しようという意味は、現行ソフトでは要介護1相当としか判定できない状況を変え、一次判定で要支援2と要介護1の区分も行おうとするものであるが、認定ソフト1999から2002に変わった平成14年4月には、判定ロジック自体が変更されたことで認定結果の46.4%が要介護1に判定される結果を生み出した。そのことを思い出すと、裏技がある、ということに注意しなければならない。

つまり平成14年4月以降、軽介護者が大幅に増加したという意味は、ソフトの判定結果により出現した問題で、要介護状態にまったく変化がなくても要支援と要介護1に認定されやすくなっているロジックに変更されているのである。

すると何も制度改正で要介護2の一部を予防に移行させて「サービス制限だ」と批判を受けなくとも、認定ソフトのロジックを、現行、要介護2と判定されている状態を、そのまま要支援2と認定できるようにすればよい、ということにならないだろうか。

考えすぎかな?どちらにしても新認定ソフトは結果だけでなく、樹形図を含めた中身のロジックの検証が必須である。

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