三好春樹氏といえば業界では超有名人だ。彼の介護の世界に残した功績は今更いうまでもなく、生活リハビリや利用者の視点から見た認知症高齢者への関わり方など、我々が学ぶべき点は多い。

それに対して私ごときが意見を述べる立場にはないが、ただある職員から氏の著書の文章を引用して疑問を呈せられたので、意見を述べさせてもらう。

かねてより私は介護施設における職員の言葉遣いは「介護保険施設の割れ窓理論」として、その乱れは問題であることを指摘してきた。

しかし三好氏の著書「ねたきりゼロQ&A」のQ52、言葉遣いにうるさい施設長、という問いの中で「言葉の強制は強制労働よりひどい」として次のように書かれている。

『そもそも私は施設長が介護職員に言葉遣いをよくしろ、と説教したり、チェックしたりすることは問題があると思っています。言葉には二つの側面があります。一つは規範としての言葉です。もうひとつは自発性です。言葉を通して自分自身の内面を表現するという側面です。同じ言葉を使っても人によって意味が違ったり、比喩になったりするのがそうです。人に言葉を強制するのは、こうした自発性を抑え、内面を管理することに他なりません。かつての社会主義国では権力によるこうした強制を拒否した人は、収容所で強制労働をさせられました。そうしてまで自分の内面を守った人が大勢いたのです。私は言葉の強制は労働の強制よりもっとひどいことだと思っています。施設長は一人ひとりの職員から自然に優しい言葉が出るようになるかを考えるべきなのです。職員が喜んで働ける環境を作ったらどうでしょう。現場の人を監視し言葉狩り、をするよりはるかに職員も老人も元気になると思います』

後半部はともかく、強制労働と言葉の修正教育を一緒にするのは間違っている。

言葉は時に刃物だ。

言葉で人の心を傷つけることは簡単だ。そして、そのことに気づかずに不適切な言葉を日常的に使ってしまう職員がいることも事実で、利用者を守るためにも適切な言葉の教育としての訓練は必要で、不適切な言葉遣いが「言葉を通して自分自身の内面を表現」という理由で許されるものではない。

介護現場で「利用者の心が傷つく」状況と「職員の自分自身の内面を表現」のせめぎあいが起こるとしたら、僕は迷いなく利用者を守る。

「自分自身の内面を表現」といっても言葉の適正化を図る取り組みは、職場という機関における就業中のルールに過ぎず社会規範の範囲で、こんなものを強制労働に結び付けて論ずるほうがどうかしている。

「ひとりの職員から自然に優しい言葉が出るよう」な環境づくりは、適切な教育育成体制も含めて考えるもので、一方的に命令指示するという思い込みで変な指摘をしてほしくない。

我々が職場で行っている取り組みは、言葉の強制ではなく、言葉の大切さの意味を職員全員で理解して、適切な言葉を使いながら、良いサービスを実現しようという取組である。こうした取り組みに水を差すような大衆迎合的・不適切ケア迎合論文は百害あって一利なしである。

僕が職場で職員の言葉の大切さを職員に語る際に使った最近の文章を以下に掲載する。

『我々の施設の「声かけ」や介護サービスについて、あらためて振り返って考えて見ましょう。
特養での言葉の虐待の問題が大きく報道されています。
しかし少し油断すれば、似たような状況が気づかないうちに、この施設でも発生するかもしれないと思います。

虐待をする職員、言葉の虐待を行う職員すべてが日頃から「悪いやつ」といえるかといえば、そうでもなく、ごく普通の人が慣れから不適切な言葉や態度に気づかず、それがエスカレートして、密室場面でそのような不適切な態度をとることに罪悪感を感じなくなってしまうという恐ろしさがこの問題には含まれていると思います。

当施設でも日頃から外来者への挨拶をしっかり、はっきり大きな声ですること、利用者の声かけは「丁寧語」を基本として親しき仲にも礼儀ありということを忘れないように呼びかけていますが、なかなか日常的に守ることができない職員もいます。

外来者に挨拶ができない職員。利用者に命令口調や友達言葉を使ってしまう方は是非気をつけてください。さすがに虐待と思うような言葉かけに遭遇することはありませんが、「冷たい」印象を感じたり、「命令」的な雰囲気が感じられる言葉に出会うことがあるのは事実と思います。

また例えば食堂で食事介助をしている場面で、利用者や食事とはまったく関係のない話題を職員同士で話している場面がないとはいえません。これも不適切であることは間違いないし、利用者を無視した虐待的態度ととられても言い訳ができないと思います。他の介護場面、入浴介助や排泄介助の際もしかりです。

介護サービスの評価は、良いサービスを行っているかという以前に、不適切なサービス、特に利用者が「嫌だ」と思うサービスではないか、という検証がまず必要だということが重要な視点です。

利用者に信頼され喜ばれることが、この施設で働く職員のモチベーションにもなるし、それはとりもなおさず職員として品質の高い適切なサービスに携わるということです。

なにより介護は人を幸せにする支援なのですから、介護者や介護施設の職員が、人を不幸にしたり、悲しませる要因になってはいけません。』・・・以上である。

こと、この問題に関しては、いかに偉い先生の考えであろうと、僕は譲ることは出来ないのである。

介護・福祉情報掲示板(表板)