新介護予防の議論の中で極めて滑稽な議論がある。成功報酬の議論である。

介護予防WTの議論を受け介護給付費分科会で現在検討されている方向は、通所サービスを対象に、一定期間利用期間がある方が、要介護度が改善したり、維持したりする場合に、当該利用者が利用している通所サービス事業所に成功報酬として給付費に加算をつけようとする議論である。

これがおかしことに気づかないような「専門家」によって予防給付が議論されているから新予防給付は必ず失敗するのである。

予防の対象は廃用症候群モデルである。

廃用とは、実際の加齢に伴う身体機能の衰えより以上に、実際の機能低下が進行する状態であり、想定される一般的身体機能低下と実際の低下の差が大きければ大きいほど廃用は進行していると言える。

この原因に的確に処方できれば廃用の進行を遅らせることができ、それが予防である。

そして国がこの処方として考えたのが、栄養障害の予防や口腔ケアの取り組みによる健康維持メニューと、一連の筋力トレーニングを含む運動器の機能向上メニューである。

問題は後者である。運動器の機能向上を筋トレを中心に行なうことが廃用を防ぐことになるのか。

これは我々の筋力がどのように保たれているかを考えれば一目瞭然である。普段の生活に使わない機能は、決して維持されたり向上されたりはしないのだ。辛いメニューや、面白くないメニューは一時的な効果しか表さず(モデル事業の効果など、これに尽きる)それは予防のエビデンスにはならない。

つまり、できることを増やしても、実際の生活で「やらなければ」予防にならないのだ。日常生活の中でできる機能を使う生活を考えることなく、単なる身体能力への対応プログラムに着目しても継続しないのは明白なのだ。生活に機能を生かすためには、その機能を使って過ごせるような「動機付け」が不可欠だ。そして、それは要介護度ではなく、生活の質で評価すべきものである。

ところが今回の成功報酬は、どこに支払われるか?事業所に対してだ。利用者は逆に加算算定されることで1割負担分が増えるかもしれない。

つまりこの介護報酬は事業所の動機付けにはなっても、利用者の動機付けにはならない。

事業者はこれにより、要介護度が維持、改善しない利用者をお荷物と考えるかもしれないし、頑張って通所サービスに通ったことでレベルダウンが最小限に防げたけど、要介護度は悪化した(利用していなかったらもっと悪化するようなケース)も評価されない。

いっそのこと成功報酬は利用者本人に、本人支給金として支払ったほうが、少しは「動機付け」効果により、結果が良いかもしれない。