左半側空間失認とは脳の高次機能(知識に基づく認知的な脳の働き)障害で、脳の右半球損傷後に起こる場合がほとんどで、結果的に左片麻痺の人に多い症状であり、対象者の左側が見えているにもかかわらず認識できない、見えているのに意識に上らず結果的に見落とす、という症状である。
まずこのブログに張り付いている画像をご覧いただきたい。
これは私が左半側空間失認を疑った女性利用者に対して行なった簡易テスト:とはいっても画用紙に林檎の絵を3つ並べ「塗り絵をしてみましょう」と色を塗ってもらっただけであるが:の結果である。
これほど典型的に症状がテスト結果に出る例も珍しいが、ご覧のように一番右端の林檎は、ほぼ完全に色が塗られているのに、真ん中の林檎は右側2/3しか色が塗られておらず、左端にいたっては右部分の一部しか色が塗られていない。
つまり彼女にとって自分の体の左側の物は意識できない状態なのだ。
私が彼女の左半側空間失認を疑ったのは、彼女が食卓テーブルにつく際に、テーブルに対し、まっすぐに着席できないことだ。
車椅子を健側の手と足を使って上手に動かし、移動には問題がないにもかかわらず、テーブルに着く際に曲がってしまう。それも決まって左側が先にテーブルに触れ、右側が入りきらない状態で、右側向きに曲がって着席する状態になる。
最初は性格の問題かな?と疑ってしまったが、どのように声かけしても、うまくいかない。
これは結果的に、左側のテーブルが意識に上がってこないため左側のテーブル位置がわからず、右側のみの意識でテーブルにつこうとするから、自分の左部分が先にテーブルにぶつかって動けなくなるためと思える。
思い合わせて考えると、彼女は認知に全く問題がないのに、時折、ボーとしていることが多いし、無気力と見られがちだ。
しかしこれは左半側空間失認の典型的症状である。
左半側空間失認がある方の状態例として、右を向いている、話し掛けてもとりとめがない、なんだかやる気がなくて……、と誤解を招きやすいことがよくある。
高齢者の場合、厄介なのは、これを気力の衰えや物忘れ、認知症などと誤解してあきらめてしまうことだ。
しかしこれは性格的な問題でも認知症でもない。
例えば本ケースの女性の場合も、封を切って渡した薬を食後、自分で飲むが、飲み忘れがある。しかしそれは決まって、薬をお盆の左側に置いた場合で、右側に置くことで、それは防ぐことができるのだ。
そのほかの方でも、例えば自力で食事をしているのに、副食を1品しか食べない、あるいは主食しか手を出さない、などの方で、左麻痺がある方は左半側空間失認を疑ってもらいたい。
単に、食器の位置を工夫することで改善する例があるのだ。
また、食器の位置だけでなく、皿の部分だけでも、皿の右部分におかれた副菜は食べるが、左に添えられたポテトサラダにはまったく手を出さない、という例もあるのだ。
そのほかにも、視力に問題がないのに左側を歩いている人にぶつかる、などという症状が出る。これも認知症と間違えないで、その方の移動の際には環境整備も含めて左側に注意する、などの配慮が必要だ。
介護の現場の職員が、そういう症状がある、ということを知っておくだけでケアに生かせることは多い。このような方へのコミュニケーションも相手の右側に立つことで、よりスムースになる。
食事介助が必要なら、なおさらだ。
箸やスプーンが対象者の左側から伸びると口が開かない、何かの拍子に口をあけた際、食事を口に入れると誤嚥しかねない。
無気力ではなく、意識できる側から(右)しっかりコミュニケーションをとって誘導すれば、自立できる部分は多いのだ。
是非、このことを介護の現場職員は覚えて意識して介護にあたって欲しい。
だが、左半側空間失認などという難しい言葉をおぼえる必要はない。
なんなら「ふぞろいの林檎症状」とでも言い交わして、理解していただければ、左半側空間失認の方の行動理解と適切なケアサービスに繋がる可能性は大いにある。
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